Interview
古民家を1棟でも多く残すために。「古木」で建物の価値を上げる現場監督へ
岸 航平
きし こうへい
株式会社 山翠舎
現場監督
お客様の想いを聴くことから、店舗の完工まで責任を持つ
「お客様の夢や目標の出発地点に関われることが、この仕事の魅力だと思います」
そう話すのは、2016年入社の現場監督・岸 航平さん。以前はマンションなどを手がけるゼネコンにいた岸さんは、個人店舗の施工の比重が大きく、お客様と直に接することのできる今の仕事にやりがいを感じている。
「お客様の『こういうお店を開きたい』という想いを聴くことから始め、現場の職人と協力しながら仕事を進めます。他の会社と比べて現場監督が手を動かすことが多く、提案から完工まですべてに責任を持って取り組むことができます」
山翠舎の古木に魅力を感じて施工を依頼されるお客様には、店舗づくりに強い思い入れのある方が多い。内装に関しても、古木の持つ個性を活かし、その店にしかない、オンリーワンの空間を作り出すことが求められる。
「3年ほど前、あるお客様から『最短でビブグルマンを取りたい。そのための店を作りたい』というご依頼を受けました。ビブグルマンとは、ミシュランガイドでコストパフォーマンスの良さを評価された飲食店に与えられる称号ですが、それを目指したいとのこと。小規模店でしたが、打ち合わせや施工に長い時間をかけ、隅々までこだわり抜いて仕上げました。昨年そのお店は本当にビブグルマンを取り、予約の取れない繁盛店になっています。そんな有言実行の方とお仕事をご一緒できたことは、非常に刺激的な経験でした」
その店舗の顔となっているのが、古木を使った大きな一枚板のテーブル。山翠舎が手がけた中でも最大級で、実現は難しいかとも思われたが、お客様の強い要望に応えて作り上げたものだ。お客様の想いにとことん寄り添い、喜んでいただけたことは、岸さんの大きな自信になったという。
そして岸さんは昨年、念願の仕事にも携わることができた。
「川越にあった土蔵を、骨組みだけで東京に移築するプロジェクトに参加しました。半年以上かかった大規模な移築で、終わったときの達成感は大きかったですね。もともと古民家を残す活動がしたくて山翠舎に入ったので、自分の中で目的を1つ果たした感覚がありました」
古いものを大事にしたい。その想いで古民家を研究
岸さんの生まれは岡山県岡山市。母方の実家は古民家で、神社仏閣なども好きだったことから日本建築に興味を持ち、大学では福島県で古民家を研究した。
「南会津で古民家の伝来について、限界集落を訪れて調査していました。興味ある学びに没頭できたので、とにかく楽しかったですね。そして知れば知るほど、古い建物をなくしたくない、という想いも強くなっていきました」
しかし、就職に際して古民家に関われる職はなく、新卒で地元のゼネコンに入社。だが、そこでの仕事は岸さんには合わなかった。
「自分が会社の駒になったように感じていました。上司の指示通りに動くだけで1日が終わってしまう。建築の仕事が嫌いになりかけました。結局その会社を辞め、転職した営業会社のテレアポのリストに山翠舎の名前を見つけ、『ここだ!』と思ったのですから、人生何があるかわかりません」
下調べのために見た山翠舎Webサイトには、古民家の移築や、古木を使った施工など、まさに岸さんのやりたいと思っていたことが書いてあった。そのまますぐに面接を受け、入社が決定。電光石火、ゼネコンを退職してわずか3ヵ月後だった。
古木の保全のために、古木の価値を上げる挑戦
「こういう会社があればいいなと思っていた会社が、まさに山翠舎でした」そう語る岸さん。今は若手主体の組織で伸び伸びと活躍している。
「他の建築会社と比べて、年齢層がとても若い。木が好きで性格も穏やかな人が多く、何かあれば助け合う精神があるのも特徴だと思います。社長は行動にスピード感があってITにも強く、新しいビジネスのヒントを見つけてくる人。社員に対しても何にでも挑戦してほしいという気持ちがあり、それが社風にもなっています」
成長を続ける山翠舎で、岸さん自身が挑戦したいこと。それは、これからも古民家を1棟でも多く残していくための保全活動だ。
「そのために、商業的な知識もつけたいと考えています。最初は、古木を積極的に活用していくことを目的にするより、今あるものを守ることが大事だと考えていました。しかし、古木の価値が理解されていなければ、結局は建物も取り壊されて、何も残らないのです。お客様の建物で何ができるのか、どうしたら価値を上げられるのか、常に頭を使っています」
山翠舎の現場監督は営業もする。工事現場の知識だけではなく、提案スキルも必要となる。古民家や古木の良さを知ってもらい、お客様により高い価値を提供していくために、岸さんの挑戦はこれからも続く。