Interview

古木、人、空間の共演(FEAT.)。そこから生まれる関係が、持続可能な街や社会を創っていく

 

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山上 浩明
やまかみ ひろあき
 
株式会社 山翠舎
代表取締役社長



 
家をリサイクルし、古木を再活用する仕組みを構築
 

「良いモノは、良い人間関係の中で生まれます。私たちに可能性や面白さを感じ、一緒に新しいことにチャレンジしたり、アイデアを実現したりしたいと思っている人たちと、フィーチャリングしていく未来を創りたい」


そう語るのは、1930年創業の山翠舎(さんすいしゃ)代表取締役社長の山上浩明。「共演」とも訳されるフィーチャリング、“FEAT.”の価値観を大切にし、建築業界に新たな風を吹き込んでいる3代目社長だ。


「長野の木工所から始まった私たち山翠舎は、古民家を解体して得られる歴史ある古材=古木に、特別な思い入れとこだわりを持っています。一本一本に、何十年何百年と受け継がれてきた想いやエピソードがある古木。それを丁寧に管理して品質を保ち、店舗や住宅の施工、家具づくりなどに使うことで、新たな価値を持つモノへと生まれ変わらせているのです」


通常は廃棄処分される古木を再活用し、古民家のリサイクルを実現する。そんな持続可能な仕組みをデザインし、お客様にも、地域にも、社会にも貢献できる会社でありたいと考える山翠舎。その強みは、設計から施工までを一気通貫で手がけられること。そして、経験と実績において“古木のプロフェッショナル”であること。


しかし、それだけが企業としての価値なのではない、とも山上は言う。
「私たちの特徴は、対応の柔軟さと幅広さにあります。敷地約2300坪の古木倉庫兼工場に加えて、2つの古木置場があり、常時5000本以上の在庫を確保しています。お客様からの細かい要望や急な設計変更に対しても、小回りの利いた柔軟な動きが取れるのです。工場や倉庫を持たない工務店では、ここまでの対応は難しいでしょう」


古⽊は経年変化によって硬く、重くなっており、形も1本1本違う。そのため特別な扱いが必要で、古木を知り尽くした熟練の職人たちによる手作業が不可欠だ。一方、広大な古木倉庫の中では大型の天井クレーンが重い古木を運び、日常業務には最先端のITシステムを導入して生産性を上げている。


さらには施工のみならず、飲食店などの店舗運営ノウハウの提供までトータルにサポートする「料理人応援システム™OASIS」を展開。店舗の経営も支えている。こだわるところはこだわり、効率的にできるところは仕組み化する。その結果、お客様が叶えたい大きな夢からニッチな要望にまで応えられることが、山翠舎の強みとなっている。


「山翠舎は、時代や業界の流れに逆らっている会社かもしれません。例えば、建築の施工で使う素材は、ほぼすべてが新材や既製品を使うことが多いのが現状。設計と施工も別々の会社であることが多く、自社で工場や倉庫を持つこともない。それでも私たちが独自路線にこだわるのは、『古木の価値を上げること』『一人ひとりのお客様に最適化した対応で、期待に応え続けること』『山翠舎に可能性を感じる人や企業と共演し、新たな価値を生み出すこと』を大切にしているからです。そして、これからもそういった挑戦ができる社風を持つ企業であり続けたいと考えています」


山翠舎は30年前からプロジェクト単位で仕事を請け負う、「ギグエコノミー」の考え方を取り入れ、デザイナーや職人など関わる人の働き方を多様化させてきた。お客様、協力会社、社員、外部パートナーといった“人”はもちろん、空き家問題や地域創生、廃棄物処理などの社会課題の解決まで含めた、全方向的にメリットがある「全方よし®(*1)」という価値観も掲げている。


未来を見据えて次々とチャレンジを重ねる山上浩明。その仕事へのエネルギッシュな姿勢は、どこから生まれてきたのだろうか。


*1山上社長が提唱している言葉。古木利用は地球環境に優しく、地域や社会の課題解決にもなる。古民家の持ち主にも、古木を使って店舗を施工したいお客様にもメリットがあるなど、関わる人すべてが幸せになれる仕組みだということ。

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山翠舎は磨けば光るダイヤモンドの原石
 

「長野の実家の裏に竹やぶがあって、幼い頃は竹鉄砲や竹とんぼを自ら作って遊んでいました。手先が器用で、竹細工だけではなくリンゴなどの果物の皮をナイフでむくのも得意。この頃からもうモノづくりに対する興味が芽生えていました」


そして家の目の前に木工所があったからこその、忘れられない遊びもあった。


「それは何もしなければゴミとなるものに手を加えて、遊び道具を作ること。山積みになった木の端材や使用済みの機械のパーツなどから、材料を組み立て直して遊ぶのが面白くて。今も意識している“もったいない精神”は、この頃に育まれたのかもしれません」


木やモノづくりなど、現在の仕事につながるテーマが身近にある環境で育ってきた山上。だが高校生になり、進路を考えるときに選んだのは、建築の道ではなかった。


「父のことは尊敬しているし、憧れてもいたので、跡を継ぐことも考えました。ですが、建築には設計からデザイン、施工まで多岐にわたる分野が含まれます。それを建築学科という限定された1つの選択肢に絞って学ぶことがしっくりこなかった。それと、当時一番興味があったのが環境問題で、森林破壊や海洋汚染のニュースを見るたび、胸を痛めていました。しかし、想いと勘だけでは環境問題は解決できないと思い、数字の分析や戦略などを学べる経営工学を専攻することに。経営と数学を掛け合わせた、理系・文系両方の要素がある学びは、多様性や柔軟性を大事にする私の価値観にも合っていました」


入学した東京理科大学理工学部では、学部在学中に省エネルギーに関する論文を2本書いた。卒業後は最先端のIT技術に触れるため、ソフトバンクに入社。営業を担当し、社長賞を取るほど活躍した。その後山翠舎に転職することにしたのも、大学や新卒時代に幅広い経験をしたことで、改めて山翠舎の事業に惹かれるようになったからだという。


 「就職してみて、自分は現場で自分の手足を動かして泥臭く成果を出すことや、アイデアや仕組みを考えて結果を出すことが好きなのだと実感できました。山翠舎もまた、現場主義を大切にしていて、倉庫で職人さんたちが汗を流して働いている。会社としては不器用なところもありましたが、事業の仕組みを構築すれば発展性もある。私にとっては、磨けば光るダイヤモンドの原石のように思えたのです」


父親に入社の希望を伝えたが、最初は「建設業界はお前には向かない」と断られ、3回目の申し出でようやく許可を得る。2004年、28歳の時だった。最初に手がけたのは、自社で古民家から古材を調達する流れを作ること。その後、下請けだけでなく、元請けとしても施工に携われるよう事業を展開していった。


「建築業界のことはまったくわからない状態での入社でした。その頃印象に残っているのは、地元長野で古民家の解体作業現場にたまたま遭遇したこと。解体業者が何の躊躇(ちゅうちょ)もなく家を取り壊し、トラックで廃材を運び出し、あっという間に処分してしまう。それが仕事だと頭では理解しながらも、こんなに歴史のある木をゴミにしてしまうのは本当にもったいない、そう強く感じたのです」


新築や建て替え時に使うのは新材の方が使い勝手がよく、しかも安い。建築業界全体で見ても、あえて古い素材を再利用しようとする文化はなかったのだ。


「だからこそ、難しいこと、誰もやらないことにチャンスがあるはずだと思いました。それが現在山翠舎の事業の軸となっている、古木のブランド化です。古民家に使われていた、地域や家族のストーリーを宿す古い立派な木材。その来歴や入手地を記録し、トレーサビリティを確保したものを『古木™』と定義し、商標登録することによって、新たな価値を創出しました」


古木を軸に、2009年からは外部パートナーの力も借りながら、施工だけでなく、店舗の設計・デザインもスタート。古木の仕入れから、企画・設計・施工・流通までの自社一貫体制を整えるに至る。こうした様々な事業改革を経て、2013年、山上浩明は山翠舎の3代目社長に就いた。入社して約10年が経っていた。

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古木と山翠舎のファンを創り、人を、街を、社会を元気にしたい
 

現在の山翠舎の事業の柱は、古⽊を使った店舗の設計・施⼯、古⺠家の移築再⽣による店舗づくりといった、店舗を取り巻くすべてをトータルサポートすること。いわゆるBtoBが中心だ。しかし、山上の思い描く未来はそこに留まらない。

「『古民家・古木サーキュラーエコノミー』が日本の建築技法・文化を守る取り組みとして、2020年にグッドデザイン賞を受賞し、テレビをはじめ各種メディアに取り上げられることも多くなりました。それだけ古木という対象に注目が集まっているのだという手応えを感じます。しかし、これを一時的なブームとは捉えていません。古木を通じて幸せになれる人はもっといると思うし、古木を手がかりにSDGsにおける環境問題や持続可能な社会に関心を持つ人も増えてほしい。そんな想いを込めて、今後BtoCの事業も大きく展開していきます」

オーダーメイド家具の物販サイト「FEAT.Order」。古木を使ったオフィス「FEAT.Office」。山翠舎が運営する自社メディア「FEAT.Magazine」など、FEAT.シリーズを展開していくのも、その活動の1つ。フィーチャリング=共演のブランドコンセプトを体現する、サービスや場、メディアなどを展開し、ユーザーと共に新たな価値を創っていく構想だ。

山上はこれによって「トライブ」を作りたいのだという。直訳すると“部族”という意味を持つこの言葉は、お客様を単なる消費者としてではなく、ブランドを信じてくれるファンとして接し、家族や仲間のようにつながっていくという想いを表している。

「BtoCのお客様からBtoBの仕事の依頼が生まれたり、その逆もまた然り。山翠舎がやることをカッコいいと思ってくれる『山翠舎トライブ』が増えれば、山翠舎と共演したい人や企業もきっと増えると思っています。山翠舎の代表としての約8年の間に感じたのは、結局人と人との関係性が一番大事だ、ということでした」
山翠舎は2030年、創業100周年を迎える。この大きな節目をどう迎えたいのか、最後に今後のビジョンを聴いた。

「社会課題を解決していくことで、企業としてのステージを上げていきたい。例えば、『古くなった家をリサイクルし、人が集まる店舗を作ることで地域の空き家ゼロを実現し、街の活性化を目指すこと』『建築のサービス化により、オーダーメイドで店舗を作れる仕組みを構築し、お客様の伴走者としてサポートしていくこと』そういった活動を通じて、人を、街を、社会を元気にしていきたい。そうすれば、私たち自身も古木のリーディングカンパニーとして、100年経ってもなお成長し続ける持続可能な企業になっているはずです」

古木を軸にサステナブルなビジネスを展開しながら、共感できる人たちと面白い仕事、面白い社会を作っていく。熱い想いを胸に、山翠舎と山上浩明の挑戦はこれからも続いていく。


 

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